うろうろ、裏具のうらがわウォーク04

片道だけの手紙を送りあう「カタミチテガミ」

片道だけの手紙を送りあう「カタミチテガミ」



拝啓 どこかの誰かへ

このキチンと封をされた紙の密室の中では、人々は、ゆっくりあぐらをかいて語ることもできれば、寝そべって語ることもでき、相手かまわず、五時間の独白をきかせることもできるのです。-三島由紀夫『レター教室』


『レター教室』という本の中で手紙について語られた文章です。
こんな風に気兼ねなく誰かへ手紙を書くように、裏具の裏側をご紹介できたらいいなとおもいます。

こんにちは、京都の紙もの文具店「裏具」の企画・デザインを担当している猫です。
早すぎる梅雨が明け、いよいよ本格的な夏がやってくる気配に、暑さが苦手な裏具メンバーはすこしバテ気味。
あなたは元気に過ごしていますか?毎日ごはん食べていますか?

日本では旧暦の7月を「文月」と呼んでいたことから、7月23日は「文月ふみの日」、毎月23日は「文の日」と呼ばれているそうです。なんだか素敵ですね。文の日にちなんで、裏具では2020年7月23日から「カタミチテガミ」という企画をはじめました。




あなたが出会ったことのない “誰か” に向けて手紙を書くことになったら?

あなたが出会ったことのない “誰か” から手紙が届いたら?

カタミチテガミは、ある日、年齢や性別、職業を超えて裏具を通して “誰か” へと届けられます。

喜び、後悔、記憶、愛しいもの。ただ、綴りたい、片道だけの手紙。

あなたの綴ったコトバは手紙の先にいる “誰か” の「お守り」になるかもしれません。



「カタミチテガミ」はその名の通り「片道だけの手紙」を送りあう企画です。
専用の便箋をつかって、どこかの “誰か” へ想いを馳せながら手紙を書き、裏具宛にお送りいただく。
裏具では毎月23日(文の日)までに届いた手紙をべつの “誰か” へ送りなおす。
という、郵便代行のようなことをしています。

この「カタミチテガミ」の構想はひとつの物語からはじまりました。

ジャック・フィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』という一冊の本。
手紙を書くことは、実はとても儚くロマンチックなことなのだと気がついたのはこの本を読んだときからです。

甘くほろ苦く、不思議でノスタルジーな短編集なのですが、特にすきだったのが「愛の手紙」という物語。
アンティーク机のひきだしの奥に19世紀の女性が書いたラブレターが入っているのを発見した主人公が、試しに返事を書いてポストに入れてみたら、あくる日机の別のひきだしに返事が入っていた。しかし主人公はすぐに気づいてしまいます。ひきだしの数しか返事がこない、やりとりができないということを。時空を超えた不思議でほろ苦い恋の物語でした。

もし自分が決まった数しか手紙を出せない相手に恋をしたら何を書くだろう。
伝えられる言葉が限られたなかで、大切な人に向けて何を言いたいだろう。
そんなことを考えながら、物語の最後なんとも言えない素敵な気持ちになったことを覚えています。




「ほんのわずかなことがきっかけで、当たり前の日常から抜け出す」
本のなかの主人公が体験したそれは、ちょっとした好奇心であり、救いでもありました。
そんな体験をしてほしい、いや誰よりもわたしが体験してみたい!というおもいが、カタミチテガミの構想の第一歩でした。
「まるで、海に漂うボトルメールを見つけたときのようですね」と言ってくださった方がいました。まさにそんなことがしたかったのです。



この企画を考え出したとき、世界はコロナウィルスの影響で不安と混乱、外に出られない鬱屈が蔓延していました。
そしてこの頃わたしには、SNSを通して文通をする友人ができました。
届いた手紙のなかには、日々に対する自分にはない視点が散りばめられ、会ったこともなければ、声を聞いたこともない “誰か” の暮らしが確かにそこに存在していたのです。
選ばれた便箋、筆跡、同封された美術館のポストカード、最近読んだ本や聴いた音楽のこと…それらに触れることは、わたしを安心させ、日々に埋もれたわくわくを思い起こさせました。
でもわたしのように手紙を送る相手を運よく見つけられる人は、今の時代にはすくないのではないだろうか。書きたいと思ったときにすぐに誰かに書ける仕組みがあれば……これが「カタミチテガミ」の構想の第二歩目でした。



そしてこの「カタミチテガミ」、届く相手がどんな人かまったくわからないので何を書けばいいか迷ってしまうという人もいることでしょう。そんなときのために、手紙を書く手助けとなる「テーマしおり」をランダムで10テーマつけることにしました。全部で108テーマあります。

雨は好きですか?嫌いですか?

今日うれしかったことを教えてください。

日常に欠かせないものはありますか?

記憶に残る本の話を聞かせてください。



たとえばこのようなテーマなのですが、もうお気づきでしょうか?
テーマを通して、ふだんあまり意識しないことを考えてみる、自分自身と対話してみる、そんな風にして書く手紙は自然と独白になってしまうのがほんのちょっとこそばゆい「カタミチテガミ」の醍醐味です。
だから届いた手紙はまるで誰かのこころのなかを覗くような気にさえなります。

そんな風にしてできた「カタミチテガミ」はじわじわと広がり、今でも月に数通届いては誰かのもとへ届けられています。
これまで届いたお手紙はふとした日常の話から、人知れず感じている後悔、本人には伝えられない切ないラブレターまで実にさまざま。
届くたび、人の人生にはとてつもない物語がつまっているのだと気付かされる日々です。

この記事を読んでくださっているあなたとの、この偶然が重なった縁にも感謝しなければなりませんね。

どうかお元気で。あなたにも素敵なことが起きますように。


裏具 猫 敬具







【裏具】
住所 / 〒605-0963 京都市東山区塩小路通大和大路東入三丁目本瓦町672番地
TEL / 075-744-6540
営業時間 / 11:00〜17:00
定休日 / 月・火曜(祝日の場合営業)
公式HP / https://www.uragu.com
Twitter / https://twitter.com/uraguproject
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