KYOTO LETTER 編集部
京都ゆかりの芥川賞作家である赤染晶子さん。『じゃむパンの日』はゆるっとした面白さが魅力のエッセイ集です。 明確に脳裏に浮かぶ場面と、そこでドカンと起こる笑いをお楽しみください。今回は『じゃむパンの日』書籍内より編集部厳選の5編をピックアップしご紹介していきます。
『京都でつながる本と私。』 この連載では、京都ゆかりの作家の書籍や、京都が舞台の物語を紹介しています。
今回は京都府舞鶴市出身の作家・赤染晶子さんの初エッセイ集『じゃむパンの日』をご紹介します。赤染晶子さんは2010年に『乙女の密告』という小説で芥川賞を受賞されています。京都ゆかりの芥川賞作家である赤染晶子さん。『じゃむパンの日』はゆるっとした面白さが魅力のエッセイ集です。
明確に脳裏に浮かぶ場面と、そこでドカンと起こる笑いを楽しめる作品です。
ここからはKYOTOLETTER編集部が読後の思い入れが特別強い章を5つピックアップして、『じゃむパンの日』の目次に沿ってご紹介していきます。
『じゃむパンの日』には数人の「ちび君」が登場します。彼らの名前や性格などは詳しく登場しません。ただ一時の小さな癖やエピソードが取り上げられています。
きっと著者・赤染晶子さんの日常にちょっぴり登場する子たちなのでしょう。「ちびくんの計算方法」では、著者が小さな学習教室でアルバイトをしていた時代に出会ったお子さんだそうです。
優しい先生である著者は惑うちびくんに対し「がんばれ。がんばれ。」(出典:『じゃむパンの日』 43p,12行目)とエールを送ります。
みんなと横並びでなくてもいい。焦らなくてもいい。そんな「やさしい肯定感」が、何とも京都らしいと感じました。
近年電動式の流しそうめん機が流行っていますが、それは「ただ竹と水を使っただけの流しそうめんが難しすぎるから」という理由があるのではないかと思います。
「庭で流しそうめんをした。」(出典:『じゃむパンの日』 64p,1行目)というフレーズに始まる「流しそうめん?」の章は、うまくいかない流しそうめんのシーンを外国人観光客に見つめられて必死になる赤染晶子さんらの姿が語られていきます。
正しい日本の流しそうめんを外国人たちへ見せてあげるべく奮闘しますが、最後にはどのようにそうめんを食べるのでしょうか。
きっと、読者に大いに笑ってほしくて書いた章なのではないかと思います。
京都生まれの著者さんが北海道で暮らしていているという舞台背景を、うっかり忘れてしまいそうになる章でした。
「さっぽろ雪祭りには名物がある。それは関西人である。」(出典:『じゃむパンの日』 104p,1~2行目)
関西人を見たことがなく、身近にもいない人のようなセリフではないでしょうか。まさかご本人が関西人であるとは思いもしないフレーズです。
赤染晶子さんは札幌にいる間に、関西人トークに対する印象が変化したのでしょうか。それとも関西人のことが懐かしくなったのかもしれません。
パワフルな関西人たちを俯瞰して見つめているこの著者こそが関西人であると、思い直せば良い笑いがこぼれ出てきます。
ここ「現代ドイツにて」の章で語られるのは芥川賞作家・赤染晶子さんの自分の小説と『アンネの日記』という世界的名著の関係性についてです。
著者の赤染晶子さんはドイツの大学に短期留学をした経験があるそうです。滞在先の情勢に不安になった思い出が語られています。
見えない他者に怯える生活。
寮の中では、困った事件が2つ起きます。そんな時に、赤染晶子さんが頼る相手とは。
国籍や関係性に縛られずにその人の好きなようにすればいい。
現代でもなおちょっぴり困難な人付き合いですが、赤染さんにはそう「おおらかに人を受け入れる態度」が印象深かったのだろうなと感じさせるエッセイでした。
最終編である「新・蝶倶楽部」では、赤染晶子さんの作家としての一面がとても色濃く現れています。
作家さんがどのように小説を書くのか。どのように出版社と付き合いをしているのか。そんな裏側を知りたがる文学ファンの読者へ向けて書かれたエッセイだと思います。
新・蝶倶楽部というのは、大手出版社新潮社が作家さんへ向けて運営しているお宿のような場所です。締切間際の作家たちはそこで缶詰になり小説を書くと言います。三島由紀夫など有名な日本の作家たちもこの新・蝶倶楽部で小説を書いたと言われています。
そんな新・蝶倶楽部に伝わる怪談を赤染晶子さんらしく、面白おかしく書き上げたのがこちらの「新・蝶倶楽部」というエッセイです。
作家さんの仕事の仕方や私生活に興味のある方には特別お楽しみいただける内容だと思います。
エッセイ集『じゃむパンの日』はpalmbooksさんより2022年に刊行されました。その『じゃむパンの日』初版発売当時、赤染晶子さんはすでに亡くなられています。
芥川賞をはじめ文学賞を受賞し、数々の文学作品を残した赤染晶子さん。もちろん文学作品も傑作ですが、こうした面白おかしいエッセイも魅力の小説家さんです。
ここ京都で生まれ、文学を残された偉大なる故人赤染晶子さんをより多くの方に読んでいただけましたらとても嬉しいです。
■詳細情報
タイトル:じゃむパンの日著者名:赤染晶子出版社:palmbooks (2022/01)
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