KYOTO LETTER 編集部
皆さんは芥川賞を史上最年少で受賞した作家さんが京都ゆかりの作家さんだとご存知ですか?芥川賞作家・綿矢りささん小説の入門にはぜひ『夢を与える』がおすすめです!言葉遣いが難しすぎるわけでもなく、場面設定が難しくて読みづらいということもない。芥川賞作家のエンターテイメント要素もお忘れなく!
『京都でつながる本と私。』
この連載では、京都ゆかりの作家の書籍や京都が舞台の物語を紹介しています。今回は史上最年少で芥川賞受賞した作家、綿矢りささんをご紹介します。綿矢りささん入門にはぜひこの1冊『夢を与える』を読んでみてはいかがでしょうか?
突然ですが、皆さんは芥川賞受賞作や芥川賞受賞作家の小説を読んだことがありますか?
2023年現在、史上最年少で芥川賞を受賞した方が京都ゆかりの作家・綿矢りささんという方です。
綿矢りささんの小説は数多く発表されています。すべての小説に共通するある一定の作風があり、さすが芥川賞作家だと感じさせるものがあります。
綿矢りささん小説の凄いところは、「芥川賞、けれども難しすぎない」点でしょう。
言葉遣いが難しすぎるわけでもなく、場面設定が難しくて読みづらいということもありません。
さらに面白いことに、非常にエンタメ小説寄りな小説も執筆されています。エンターテイメント要素が強く出ていて、読者を気付き以上に楽しませてくれる小説です。
今回は綿矢りさ小説入門としてエンタメ小説『夢を与える』をご紹介いたします。ぜひ『夢を与える』を読んで、綿谷りささんや芥川賞文学に興味を持っていただけたらとてもうれしいです。
というわけで今回はエンタメ小説らしく『夢を与える』を読んでいきたいと思います。小説『夢を与える』は1人の女の子の大河小説のような物語です。
女の子が生まれるところから小説は始まります。
ごく幼少期から、主人公の女の子が非常に可愛い娘だと周囲の者は注目をし大騒ぎをします。そこからテレビCMのイメージキャラクターや、モデルというお仕事を勧められていくことになるのですが、そのお仕事とは半永久的な契約でした。
お仕事の契約を受けるか受けないかを決めるのは、まだまだ小さい主人公の女の子ではなくてその両親です。本人の気持ちを抜きにして始まったビジネス。
企業やブランドとのお仕事なので、人生のなかで大きな失敗をしたり、ひどく大注目を浴びてしまうようなことを避けなくてはならないというのも込みでの契約を交わします。
全くその通りに、素直でいい子にすくすくと成長していく主人公の女の子、ゆーちゃん。学校に通うようになり、友達と遠くまでお出かけをするようになり、恋人ができるような歳にもなりました。素直でいい子のまま成長し、より一層美しい娘となる主人公ゆーちゃん。
物語の途中で勃発する「ある出来事」は、では一体誰の責任となるのでしょうか。
『夢を与える』を読んでいて、変わっていくのは「ゆーちゃん」ではなく「ゆーちゃんを見る周囲の目」ではないかと感じました。
慎重派で、素直でいい子のゆーちゃん。対して世間の見方はどんどん変化していきます。
「女の子」と「女子高校生」への目線。「最近新しく出てきた子役」と「日本中誰もが知る女優」への目線。「ただの学生」であった頃と「ものすごく稼いでいそう」に見られるようになってからとの変化もあるでしょう。
変化していったのはゆーちゃんの外側であって、『夢を与える』の途中で起こる「ある出来事」もゆーちゃんの外側で起こったこととも言えるのではないでしょうか。
ゆーちゃんは幼い頃に親御さんが勝手に結んだ契約に、全く違反していないのではないでしょうか。それなのにこんなに大騒ぎになってしまって、なんだかゆーちゃんが気の毒だと感じました。自分の評価を形作るのは、必ずしも自分の行いだけではないのです。
名前が大きくなるごとに、その変化も大きくなっていくというのがこの『夢を与える』という小説での主題にあたる部分ではないでしょうか。
『夢を与える』の中で起こる「ある事件」について、あなたはどう思うでしょうか。
『夢を与える』はゆーちゃんの大河小説のようでありながら、「ゆーちゃん」と「ゆーちゃんの外側」、どちらの世界でも並行して物語が進んでいくような小説です。
言葉遣いが難しすぎるわけでもなく、場面設定が難しすぎるわけでもない。エンタメ小説として楽しむことができる小説。けれども悩み始めると止まらない。
そんな小説の楽しみ方をしてみませんか。
そんな一味違った読書体験にはぜひ、綿矢りささんの『夢を与える』がおすすめです。
■詳細情報タイトル:夢を与える著者名 :綿矢りさ出版社 :河出書房新社(2012/10)
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