こと京都が教える -京都伝統野菜の九条ねぎのコト-第九回目



風、雨、木の葉のそよぎ、空の色合い、澄み渡る水、金木犀の香りなど、日増しに感じることが多くなる秋の気配。朝と夜の寒暖差も一層強くなりましたね。夏の頃とはまた違う、秋晴れの空とねぎ畑を望む作業中。緩やかな山並みが視界に入りますが、これから紅葉で色づく様子も密かな楽しみとして過ごしています。


さて、今月で9回目となる連載のお手紙。私たちが生産している畑の様子や九条ねぎのコトについて書かせていただきます。

刹那な秋の季節にお届けする畑の様子

季節の移り変わりとともに、私たちの生産している産地も移り変わります。
夏のメイン産地であった亀岡、美山、京丹後の広大な畑での収穫も終わりに近づき、徐々に京都市内の産地での収穫が増えていきます。京都の地形で言うと、北部の方から南下していくイメージです。京都らしく表現すると、「南へ下(くだ)る」になりますでしょうか。


今年の夏は、昨年の冷夏と対象的に、猛暑だったなと振り返ります。
10月に入ってからは気候も心地よくなり、夏場に耐えたねぎはすくすく育ち、農人たちも最後まで綺麗なねぎに仕上げようと意気込みます。
栄養を蓄える追肥作業などの細かなケアも行いつつ、頭の中では夏の畑の冬支度の計画も考えつつ。
夏の産地はエリアごとでどこも広く、雪が降り積もる美山と京丹後のエリアは完全に畑を休ませます。そして、9月から10月は冬作に向けての作付け作業もピークを迎えます。暑かった季節を終えてホッとしつつも、夏の季節とはまた違った忙しさがあります。

また、この季節は稲刈りシーズンでもあり、毎日どこかしらで稲刈りが行われ、日々の畑作業の景色が変わっていきます。近隣農家の方の邪魔にならないように、作業予定を変更することもあるので、仕事が終わる頃には真っ暗になっていることもしばしば。
ただ、夏頃に比べると働きやすく、動きやすい秋の気候に助けられています。畑のねぎたちにとっても良い環境になってきているので、これからの生育に期待する想いは募ります。

一夏を乗り越えた農人たちと、お届けする秋葱

収穫量も最盛期を迎える季節。ねぎ自体が軽いと感じる時期でもあり、1日で収穫カゴ約400杯以上、重さにして4t以上の収穫・荷運びを行います。
畑の場所によっては、荷台の機械が入りにくいところもあり、収穫を終えた後のもう一踏ん張りが必要な時も。収穫して終わりではなく、工場まで安全に、新鮮なうちに運んで、「九条ねぎ」と言うバトンをしっかり渡すまでは気を抜けません。
体力的にもきついこと・地味なこともありますが、真夏を乗り切った農人たちからは少し余裕が出てきている様子。京都の夏を乗り越えた農人、強し!です。

朝晩の冷え込みが、冬に向けてこれからも増していきますが、九条ねぎの葉の内側にある「あん(ぬめり)」の量も増えていきます。サラッとした水っぽさがあったり、根本の方に近いとぷるっとしていたり、九条ねぎ特有のものですね。
よくびっくりされるのですが、この「あん(ぬめり)」こそが、火を通すと甘みに変わる九条ねぎの魅力。人と同じく、ねぎ自身も寒さから身を守ろうとして葉を厚くし、この「あん(ぬめり)」を多く出して寒さを凌いでいます。なので、夏は少なめですが、秋冬にかけてはこの甘みに変わる「あん(ぬめり)」がたっぷりです。旬の美味しさと言われている秘密はここにあり、です。

京都の秋を楽しむこと

京都検定の勉強していた時に学んだ、あまりにも多い神社仏閣の数々。様々な歴史や特徴のある場所を訪れ、昔の人たちが過ごしていた様子に思いを馳せ、ゆったりとした時間が流れます。
そんな中で、枯山水をはじめとする寺院の「庭」に興味深さを感じたり、訪れた先々で私なりのお気に入りポイントを見つけます。

東山区、東福寺の付近にある「光明院」は、特に好きなポイント、見所がたくさん詰まっているお気に入りの寺院です。
さまざまな部屋から眺められる庭は、角度を変えることで楽しめます。別名「虹の苔寺」とも言われていて、秋の季節は特に、苔や砂紋、大きな石と紅葉などでカラフルに彩られる景色についつい長い時間うっとりしてしまいます。
朝の開門した直後、今の季節は少し寒いですが、しんとした空気感の中で静かに楽しむのが特に好きです。

皆さんの、秋の楽しみ、お気に入りの過ごし方はありますか?



九条ねぎを通して、食で感じる豊かさや幸せを多くの方に感じていただきたいと願っています。

「九条ねぎの四季ってどういうことだろう?」「どんな物語があるのだろう?」という部分を、これからも季節に合わせてお伝えできればと思っております。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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