サンノさんと一緒に
イラストのインスピレーションを発見する旅に出よう! #3日目

サンノさん

こんにちは、フリーランスでイラストレーター・グラフィックデザイナーのサンノです。

今回で三回目のコラムです!今日は「動物からインスピレーションを受ける」というテーマでお話していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

動物はお好きですか?

私はとても好きです。父方の家族が、昔から犬や猫や魚を飼っていたことが影響しているのか、私自身も、小さな頃から動物が身近にいるタイプの家で育ちました。昔はウサギとハムスターとベタという熱帯魚を飼っていて、今は犬二匹とベタを飼っています。

当たり前ですが、動物は私たち人間とは全く違う外見をしています。毛や羽や鱗などがあり、匂いが違い、動き方も違います。そんな全く違う者たちを「ペット」として迎え入れ、共に暮らすことができるということは、あらためて考えるととても不思議なことだな、と思います。

犬と生活をしている私は「何か動物の絵を描こうかな」と思うと、つい手癖で犬の絵を描いてしまいます。

おそらく「ペットを飼っている人あるある」ではないでしょうか!

ツイッターを見ていても、鳥を飼っている人は鳥の絵を描くし、猫を飼っている人は猫の絵を描くし、多分つい描いてしまう、つい描きたくなるのですね。

このように、「毎日見ているおかげでラクに描けるようになった」「かわいいから描くのが楽しい」「つい描いてしまう」ということも、大事なインスピレーションのひとつだと私は思います。

動物からインスピレーションを受けた「動物好きの画家」たちは過去にもたくさんいます。今回はその中から三人について、どんな絵を描いていたのか、すこし見てみましょう!

●アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)

前回の「ポップ・アート」についてのコラムでも紹介した、キャンベルのスープ缶やマリリン・モンローなどの作品でおなじみのアンディ・ウォーホルです。

ウォーホルがポップアートの画家として名声を築き上げる前、彼はフリーランスで児童向けの本のイラストを描いていました。当時彼は母親と暮らしていたのですが、親子そろって猫好きで、なんと25匹(!)の猫を飼っていたそうです。1954年に<25 Cats Name Sam and One Blue Pussy>という本を出版しました。

 

ただこの本の猫たちはウォーホルの猫ではなく、猫の作品で有名だった写真家のウォルター・チャンドハの作品を参考にしていたとか。Amazonでも購入可能ですよ!

また、1970年代になると、彼は当時交際していたボーイフレンドから一緒にダックスフントを飼おうとすすめられ、子犬を飼い始めました。犬は「Archie(アーキー)」という名前で、いつもウォーホルの膝のうえに乗っていたそうです。その後、二人はさらにもう一匹のダックスフントも迎え入れ、「Amos(アモス)」と名付けました。ウォーホルが1976年に発表した作品の中にも、この二匹の犬が登場しています。

<Amos>1976

<Archie>1976

タイトルもそのまま、それぞれの犬の名前がつけられています。

”大衆の日常風景”をテーマに作品を制作していたことを踏まえると、何か深い思惑があったというよりは、自分の日常の中にいる動物たちをただ率直に描いた、といった印象を受けます。

●エミリー・カー(Emily Carr, 1871-1945)

エミリー・カーはポスト印象派、フォーヴィズムのカナダの芸術家です。

カナダのブリティッシュコロンビア州ビクトリア生まれの彼女は幼少期、当時のビクトリア朝様式らしい“お行儀の良さ”が求められる生活を送っていました。しかし彼女は動物や自然が大好き。いつも池や丘を冒険したり、動物と友達になったり、女性が乗馬をする際には常識とされていた「横乗り」を拒否し、堂々と跨って乗ったりしていました。

生涯を通し、どこに住むにも、彼女の側には動物たちがいたそうで(犬や猫はもちろん、オウムやシマリス、アライグマなどなど)なかでもJavanese macaque(すみません、ちょうどいい日本語訳が見つからず…ジャワに生息するお猿の種類のようです)の「Woo(ウー)」からは多大なインスピレーションを受けたと語られています。

こうした自然や動物などといった存在が、彼女の生き方に影響を与え、あるときには支えられ、作品という形で表出されたのだと感じます。

 

2019年出版「Woo, the Monkey Who Inspired Emily Carr: A Biography」

 

<Woo>

Above the Gravel Pit

 

<Above the Gravel Pit>1937、キャンバスに油彩

<Big Raven>1931、キャンバスに油彩

彼女の愛した自然や動物、文化が、彼女の視点を通してパワフルに、のびやかに表現されています。

ただモチーフとして取り上げて描いたのではなく、自然の”中”を経験したからこそ描くことができた、彼女の精神性が内在しているように思えますね。

●フリーダ・カーロ(Frida Kahlo,1907-1954)

最後に紹介するのは、メキシコの現代絵画を代表する画家、フリーダ・カーロです。彼女は多くのセルフポートレイトを残したことで有名で(ディズニー映画「リメンバー・ミー」にも登場していました!)メキシコ先住民族の文化などからの影響を受けつつ、メキシコ人としてのアイデンティティ、そして女性に対して社会が押し付ける規範から脱却するように、女性としてのリアルな経験・痛み・タブーに切り込んだ作品を数多く発表しました。

<Self Portrait>1940、油彩

所謂”マスキュリン”な表現とされる「濃くつながった眉毛や髭」にも、”女性らしさ”に対する反発が見られます。

また積極的に政治に参加したり、バイセクシャルであることを公言していたりと、社会に臆することなく力強く自らのアイデンティティを表現していた彼女ですが、そんな彼女もまた自然や動物を愛する人でした。

<Me and My Parrots>1941、油彩

<Self-Portrait with Thorn Necklace and Hummingbird>1940、油彩

<猿のいる自画像>1940、油彩

作品にはクモザルや犬、オウム、鹿などが登場しています。描かれている動物たちはみな彼女のペットでした。

<フラン・チャンと私>1937、油彩

健康上の理由から子どもを産むことができなかった彼女は、「子どもの代理」のシンボルとしてクモザルを描いていました(上の絵に描かれている小さいお猿です)。そのため彼女の動物の絵は、単なる「私とペットの絵」ではなく、動物たちが何かの象徴であるなど、彼女の思想を表現するための重要なアイテムとして描かれていたと考えられます。

動物を愛していた画家たちを、ほんの少しですが紹介してみました。いかがでしたでしょうか?

ペットとして愛していたり、幼少期から共に生活をしていたり、人生そのものに大きな影響を与えていたり、シンボルとして描いていたり…ひとくちに「動物の絵」と言っても、描く人や時代背景によって、様々な視点や思想をもって描かれている、ということがわかります。

そうしてあらためて考えてみると、自分の場合は、例えば家族写真のような…思い出を残すために犬の絵を描いているような気がします。

あるいはちょっと息抜きをしたいときに、好きな犬の絵を描いてリラックスする、というような(こういうセラピーありそうですね)。冒頭で「手癖で、つい描いてしまう」と書きましたが、「つい」の裏には、何かしらの自分の精神状態や考えが影響しているのかもしれない、と思いました。

これを読んでいるあなたも、描きたい動物はありますか?なんで描きたいのかな、何を表現したいのかな、と考えながら描いてみると、なにか新たな発見があるかもしれません。

今回「絵を描くことで、思い出を残したいのかもしれない」と気がついたので、家族写真風(?)に飼っている犬たちを描いてみました。

おすまし顔の犬。

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