こんにちは、KYOTO LETTER編集部です。
京都で見つけた素敵なデザインをご紹介する連載「京都まちなかデザイン」。第二回となる今回のテーマは、「銭湯のレトロデザイン」です。
銭湯の街、京都
京都の街を歩けば、至る所で昔ながらの銭湯を見かけます。そんな銭湯のレトロなデザインに注目すれば、色々な発見がありそう!そう思って、京都市南区にある「日の出湯」のご主人、村木さんにお話しを伺いました。
京都駅八条口から徒歩約10分。大通り沿いの看板を目印に路地に入ると、木造の立派な建物「日の出湯」が見えてきます。昭和3年に建てられた圧倒的な存在感の建物の入り口には、夏らしい風鈴柄の暖簾(のれん)が揺れていました。
ガラガラと引き戸を開けて中に入ると、木造建築としては京都最大級の、広々とした脱衣場。その広さは、男湯・女湯合わせると60畳~70畳にも及びます。
この写真を見て、ピンときた方もいるはず。実は、2010年公開の映画「マザーウォーター」のロケ地にもなった銭湯なのです。
映画では、光石研さん演じるオトメさんと、永山絢人さん演じるジンが働く銭湯「オトメ湯」として登場。映画内で見られる、ゆったり流れる時間の流れは、日常の日の出湯にも健在です。
銭湯といえば、暖簾がひとつのトレードマークですよね。
夕方、営業時間になると、軒先に暖簾が掛かり、湯桶を手にした常連さんの姿が見え始めます。日常の中のほっとするこの光景は、営業開始した昭和24年から変わりません。
日の出湯の暖簾は30種類以上。代々大切に使われた暖簾は、赤箱でお馴染みの牛乳石鹸が作成したものです。デザインも様々ですが、夏のモチーフは太陽や向日葵、花火、海、うちわなど。青空や海を思わせる青を基調としたものが多く、街に季節の到来を知らせるひとつの目印にもなっています。
「マザーウォーター」の劇中で使用された暖簾は、シンプルで趣あるデザイン。映画の小道具として用意されたものを、撮影終了後にいただいたそうです。毎年春と秋に期間限定で掛けられ、映画の世界観が蘇ります。
ここからは、日の出湯で見ることができる、素敵なレトロデザインの数々をご紹介します。
脱衣所の中央には回転式の営業看板。「あすもあります」「あす休み」の文字が回転によって入れ替わります。
こちらは女湯の脱衣所に設置されているドライヤー。「皆さん珍しいようで。よく“お釜ドライヤー”とか言うてはります。」と村木さん。なかなか目にする機会も少ないため、特に若いお客さんは珍しがってくれるとのこと。
素足で歩くと気持ち良い籐むしろの床。柳の籠に、ダイヤガラスの木製ロッカーがレトロな雰囲気を醸し出します。
存在感のある大きな振り子時計は、8時で止まったまま。招き猫と共に、一番高いところからお客さんを見守ります。
こちらは女湯の脱衣所に置かれたベビーベッド。
「昔は家にお風呂が無いことも珍しくなかったので、赤ちゃんを連れてくる方も多くいました。ここに赤ちゃんを寝かせて、お母さんはお風呂に入るんです。赤ちゃんが泣いたら、その場にいる誰かがあやしたりしてね。」
昔は今以上に、人々の交流がある憩いの場であったのですね。
番台のコインキーパーも代々使っているもの。「50円玉のところに隙間があるでしょう?昔の50円玉は直径が大きくて、500円玉くらいの大きさだったんです。厚さは同じなので使うことはでき、今も現役です。
広々とした脱衣場の天井は「格(ごう)天井」と言われ、木を格子に組んで、それに板を張ったもの。よく見ると、木の模様も縦と横に交差する作りになっていて、繊細でありながら迫力ある印象を与えています。
昔からある体重計は、㎏表示はもちろん、貫(かん)や匁(もんめ)など、昔の重量の単位が記されている年季もの。
定期的に貼り替えられる「昭和新聞」は村木さんの手作り。その年に起こった出来事をはじめ、流行した曲や映画、CMの印象深いフレーズなどが事細かにまとめられています。
お風呂上りに眺めながら、「あの頃はこんな時代だったねぇ」と常連さん同士が話すきっかけにもなるのだとか。
浴室床のタイルは、花模様にも見える変わった配置。レトロで可愛いデザインです。
漫画家、ラッキー植松さんが描いたというポストカードは、番台にて1枚200円で販売中。今回ご紹介したレトロデザインの数々が、かわいいイラストで余すところなく表現されています。
「お風呂って、汗を流すだけの所じゃないですか。でも、それだけじゃ面白くない。季節を感じてもらうなど、プラスαの何かを楽しんでもらえたらと思います。」と村木さんは言います。その想いは、様々なイベントとして具現化。
7月~8月は、坪庭に風鈴を飾り、その音色で涼感を演出。7/30~8/4の期間中は、脱衣所に小さな氷柱を設置します。「昔、クーラーが壊れたことがあったんです。少しでも涼しくなるようにと、氷屋さんに氷を持ってきてもらったのをきっかけに始まりました。」とのこと。毎年、お客さんを楽しませています。
日の出湯が営業を始めた当時、京都には500件ほどの銭湯があったそうです。時代は平成を経て令和となり、100件ほどにまで減ってしまったとか。そんな時代に、昔ながらの良さを体感できる場所はとても貴重です。「銭湯に行ったことが無い方も、入り慣れている方も、是非お越しください。」と村木さん。日の出湯は、今日も暖簾をたなびかせ、来る人を「おいでやす」と出迎えています。
日の出湯ホームページ http://www.eonet.ne.jp/~hinodeyu/
writer/photo さと
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