3月上旬の京都はまだ少し寒さを感じる冷たい風がときたま吹きますが、空からの陽射しが暖かくなりました。新芽が萌え出し、花が咲き、生命が躍動を始めています。
「春興(しゅんきょう)」という言葉をご存知でしょうか。俳句で使われる季語であり、春のうきうきとした楽しい気分のことを言います。
特別なことがなくても、わけもなく心を浮き立たせてくれる春という季節。
学校や職場でも新しいことが始まったり、切り替わったりする時期。人との出会いや別れ、住む場所や生活に変化がある方もいらっしゃるのでしょうか。
さて、私たちが生産している九条ねぎ畑でも、春の訪れを感じたり、うきうきしたりする出来事があります。今回、連載の第2回目では、春にお届けする九条ねぎのコトについて書かせていただきます。
第1回目で私たちのことをご紹介させていただいた通り、京都府内に4箇所の産地(京都市内・亀岡市・南丹市美山・京丹後市)を持ち、季節・気候風土に合わせて産地を変えながら、1年通して「美味しい九条ねぎを届ける」為に生産しています。
今の時季に収穫しているものは、昨年の秋頃に京都市内の久御山・巨椋池(おぐらいけ)エリアで苗を定殖し育てたものです。市内の畑は、見渡すと遠くの方に緩やかな山並みが望める開けた土地で、いわゆる山に囲まれた“盆地”になります。
盆地ゆえ、夏の時期は熱気がどこにも逃げ場なく停滞し続け蒸し暑いです。肌にまとわりつく“むわっ”したあの暑さ、京都人なら容易に想像ができる方が多いのでは。街中、外気温でも蒸し暑さを感じる中、畑で感じる暑さはまた一味違うのです。天からの強い陽射しに加えて、湯気が出ているのでは?と思うほどの地熱からの暑さ。人間と一緒で、畑の九条ねぎたちが育つにはあまりにも暑さが厳しい環境下のため、冬の時期はこの京都市内をメイン産地としています。
(夏のことを思い出して書いていたら、今年の夏の京都の暑さは如何なものか…と、ちょっぴり心配になる春先。苦笑)
冬の京都盆地。陽が登ってゆく朝の時間帯、朝明けの頃。幹線道路から畑を見渡すと、白い霧のようなものが低く停滞している景色を望めます。近くまで寄ってよく見ると、畑の葉物野菜たちが霜で白めいています。野菜たちに霜が降りて、少し凍っています。
日によって、空の明るみ方が違ったりして、この幻想的な色合いの空色を望めることが、冬の朝の通勤時の楽しみだったりします。そして、「ねぎたちに旬がのっているなぁ」とワクワクするのです。
「旬がのる」という表現をしましたが、どういうことか。
畑の九条ねぎたちは、外気温の寒さがあればあるほど、ねぎ自身が寒さから身を守ろうとして葉を厚くしたり、葉の内側に「あん」と言われるぬめりをたくさん出します。
九条ねぎの特徴として、他のねぎにはない風味の良さと、この「あん」がたくさんあることで美味しさに繋がっていて、これまで多くの人たちを魅了してきました。
特に冬の季節は、底冷えの寒さと言われる京都盆地で育つことで、この「あん」がたくさん詰まっています。九条ねぎの「あん」は、火を通すことで甘みに変わります。冬に楽しむ鍋やすき焼きなど、あたたかさも相まって美味しいのはもちろん、この甘さがたくさんある“旬がのった”九条ねぎは欠かせません。
そして、昨年の秋頃の小さな苗から春を迎えるまで畑で過ごした九条ねぎたち。最大で半年ほど畑で過ごしていることになります。刹那な秋を過ごし、だんだんと寒くなってゆく中、新しい年も越え、長い冬の季節を過ごした冬葱。ようやく、あたたかな陽射しを受けて収穫の時を迎えます。苗を植えた秋の頃、夏から雨の日が多くてなかなか土づくりに取りかかれず、作業が遅れていたので焦っていました。ひとつの畑で2台のトラクターを走らせるなどして、みんなで力を合わせて畝を立てていたなぁと、収穫の時を迎えて当時を振り返ります。
1年で1番、畑で長く過ごしたねぎたちをお届けできるのは、4月頃までのあとわずか。
淡い水色の空、身体を撫でるような優しい風、あたたかい気温に誘われて虫たちが活発になる畑。
きっと、私たちと一緒で、春を迎えた喜びをねぎたちも感じていることでしょう。冬から春へと移り変わるタイミングで、葉肉の厚さも程よくあり食べ応えあり。
そして、どこかうきうきとした表情をしているような、そんな九条ねぎのお届けです。
2月中旬頃になりますかね。京都駅を歩いていると、舞妓さんの上半身姿を飾った「都をどり」公演のポスターをあちこちで見かけました。
新橋色とも浅葱色とも言われる、薄い藍色・濃い水色の華やかな着物を身に纏った舞妓さんのイラスト。
景観を配慮する京の町の中で、この色艶やかなビジュアルにはいつもパッと惹きつけられます。
春の訪れを待つ・春がまだ浅いタイミングに、京の町を彩ってくれているようなそのポスターは、「そっか、もうそんな季節か」と今年の春を感じさせてくれました。
京都の五花街のひとつ、祇園甲部が春に開催する都をどりは、心和む春の京都の風物詩。新型コロナの影響で2年連続の休演となってしまっていたようで、今回3年ぶりに開催されるとのこと。春の訪れとともに、嬉しいニュースでした。
五花街それぞれのをどりは、京都検定の勉強をしていた頃に体験しました。久々に観に行ってみようかなぁと、私の“春の楽しみリスト”に追加しました。
九条ねぎを通して、食で感じる豊かさや幸せを多くの方に感じていただきたいと願っています。
「九条ねぎの四季ってどういうことだろう?」「どんな物語があるのだろう?」という部分を、これからも季節に合わせてお伝えできればと思っております。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
来月、今より暖かくなった、桜が咲く頃にまたお会いできたら嬉しいです。
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