実際に空間を体験することで、その“建物”の「なんか、いい」をお伝えする「京都空間デザイン探訪」。京都にこんな場所があるんだ、場所は知っていたけれどこんな場所だったんだ、と思ってもらえるような場所をご紹介します。
前回に引き続き、京の温所・釜座二条についてお伝えします。
築150年ほどの京町家で、二条城が徒歩圏内でありながら、周辺環境は商いをされている京都で暮らす人々の日常が感じられるような釜座二条。京都を《観光》するというより、「京都に住む」体験ができるような温かいお宿です。
それもそのはず、京の温所は元々商いをされていたり、お家として住まわれていたりした町家をリノベーションされているので、隠れ家のような佇まい。
「一味違う、京都の体験がしたい!」といった深く京都を知りたい方にピッタリかもしれません。今回は「滞在しながら過ごしやすさをひも解く編」をお楽しみください。
京の温所はご紹介する釜座二条を含めて、京都市内に7か所展開されている宿泊施設。こちらはワコールさんが運営されている京町家一棟貸しの宿泊施設。住み手がなく手つかずになった京町家保全による京都の景観維持と地域共生を目的とされている取り組みの一つです。
具体的には、オーナー様にお借りして5~10年間、宿泊施設として運営し、その後はそのままオーナー様にお返しすることで京都の歴史や文化を次世代へ継承し、「京都らしさ」をこの先も残していくという想いが詰まっています。
さらに、外観や梁・柱など出来る限りを残しながら、「いま」の暮らしに合うようにリノベーションされ、その場所で暮らすことの本質を残しアップデートした京町家だからこそ、継承するといったポイントも納得です。
釜座二条はレミングハウス・中村 好文氏とminä perhonen(ミナ ペルホネン)・皆川 明氏によるデザイン。随所に中村氏・皆川氏らしさがちりばめられ、とても遊び心があふれていました。(お二人のvol.1をご覧ください)
ぜひ、滞在中に見つけて「ふふ♪」と楽しんでみてくださいね。
キッチンをまるごと欲しいと思ったのは初めてかもしれない…と思うくらい素敵。中村氏が設計されたキッチンで、かつ、キッチンツールは皆川氏がセレクトされているようです。
お二人ともお料理好きのようで使いやすさにもこだわりが垣間見れます。
カウンタートップの高さがとても良く、間口や通路幅もしっかりとられているので、複数人でキッチンで作業しながらダイニングにいる人ともコミュニケーションがとりやすいような設計。
さらにキッチンツールが全て本格的でした。ご飯を炊くお鍋やSTAUB、ちょっとイイお皿やカップまで全て揃っていて「京都で暮らす」を体感できそうです。
京都の食材を持ち帰って調理したりできるので、食卓の思い出も残せるのは楽しいかもしれませんね♪
よく見ていただくとわかるのですが空間内にほとんどと言っていいほど、家具やカウンターには角がありません。これは中村氏の意図で、「直角は角で線が切れてしまうけれど、アールだと目線でずっと追えるでしょう?」という思いから角のない柔らかな曲線が取り入れられているようです。
角のないダイニングテーブルにあわせられた中村氏のオリジナルチェアも素敵だったのでご紹介します。座面がペーパーコードでフィットが良く、軽くて配置換えも気にならないので、訪れた方のスタイルで人が集まり、会話が弾むようなシーンが浮かびました。
片手で持ち運べるくらい、とても軽いんです。
確かに、角がないことで手馴染みがよく、温かみを感じます。
長く使い続けていく家具ということも考えてのセレクトと思いますが、どことなく「温所」にかけたデザインなのかな・・・と推測してしまいました(笑
さらに、鉄骨階段もアール。
もっというと、手すりもアール。
端部はなんだか、猫の手に見えますね。笑(私だけ?)
手に馴染む心地よさがあって、優しさを感じられるポイントですね。(手すりは現場で調整されたようで、、、本当に職人さんの技が、、、素晴らしいです!!)
町家は奥に長いのが特徴で、店舗に改装した京町家では奥に見える中庭まで目線を引っ張るようにしてあえて室内は暗めで見せるような手法も用いられます。
釜座二条でも、ダイニングの奥はこのような風情のある景色が楽しめます。
ただ、玄関から入った時にそこまで暗い印象がなく少し不思議だったのですが、空間を見渡すと光が柔らかく取り入れられている工夫が随所にある設計が施されています。
特に、天井面からの光をうまく取り入れられていることがポイント。
螺旋階段の上部や、寝室の上部にも、明り取りの窓がありました。(美術館のような趣ある陰影ですね)
天井面で特に印象的なところは、洗面室の上の吹き抜け。アーチ形のルーバーが施され、アートのような美しさ。写真ではお伝えしきれないほど、圧巻です。
こちらの設計も、解体中に梁だけになったスケルトンの状態から、「格子状にデザインしたらキレイに見えるだろう」といった中村氏のアイデアを実現させたもの。
昔のお家は、おくどさん(今でいうコンロ)があった炊事場の上は火袋(ひぶくろ)といって、煙や熱が抜けるように吹き抜けになっているのですが、洗面室をその位置に配したことでその吹き抜けを有効に活用したそうです。
見せ方も、計画も、素敵ですね♪
1階はリビングダイニングや水廻りのあるパブリックスペース。螺旋階段を上がると2階にはプライベートスペースの寝室が2室あります。それぞれにストーリーがあり、とても心地よい空間です。
まずはベッドが2台セットされた寝室。
ミナペルホネンのヘッドボードがアクセントとなったツインルームなのですが、こちらのベッドルームで印象的なのはなんといっても、イヌマキの木を一番いい位置で切り取った“ピクチャーウィンドウ”。
イヌマキの木の曲がった枝ぶりが入り、絵画のようにとてもサマになりますね。
さらに、この寝室には小さな書斎が併設されています。
中にはデスクやクローゼットなどがあり、隠れ家という言葉がぴったりです。さらに、書斎の中からの見え方がとても素敵なんです。
洞床のようなアーチがなんとも可愛らしく、和風のしつらえなのに、なぜか海外のような印象を持った不思議な空間でした。
もう一つの寝室は、三角屋根のこもれるお部屋。
ほのかに、木のいい香りがするリラックス効果がありそうなお部屋。天井面に桐の無垢材が使われているそうで、よい香りに包まれながら眠りにつけそうです。
勾配を活かしたこちらのお部屋も、天窓からの柔らかな光が降り注いでいる明るい空間でした。
ともかくキッチンの設備が充実していることへの感動からはじまった釜座二条ですが、ゆくゆくは住まいに戻るという点から「心地よく過ごす」ポイントを外さない様々なしつらえや素材選びを滞在しながら過ごしやすさをひも解いてみました。
京都で感じられる空間の「なんか・・いい」を次回もお伝えします。お楽しみに。
【訪れた場所】
■京の温所 釜座二条(きょうのおんどころ かまんざにじょう)|京都市中京区
京都市中京区釜座通二条下る上松屋町690-2
定員/1~4名
設計/レミングハウス 中村好文 強谷陽
ファブリック・アート監修/ミナ ペルホネン 皆川明
施工/ツキデ工務店
運営/株式会社ワコール
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