『京都でつながる本と私。』vol.6|京都文学の決定版!『夜は短し歩けよ乙女』



KYOTO LETTER 編集部

『京都でつながる本と私。』今回はスペシャルな回として、「京都ゆかりの作家&京都舞台の物語」をご紹介します。小説『夜は短し歩けよ乙女』は京都文学の決定版に相応しく、エンターテイメントとして京都を味わうことができる「京都のガイドブック」のような物語です。



『夜は短し歩けよ乙女』は等身大の京都文学決定版!

『京都でつながる本と私。』
この連載では、京都ゆかりの作家の書籍や、京都が舞台の物語を紹介してます。

今回は森見登美彦さんの代名詞的傑作『夜は短し歩けよ乙女』をご紹介します。

森見登美彦さんは1979年に奈良県に生まれ、京都大学農学部を卒業された地域ゆかりの作家さんです。さらに京都を舞台とした小説を数多く発表されている方でもあります。

本日はスペシャルな回として、「京都ゆかりの作家&京都舞台の物語」を紹介していきます。



京都の数々な場面を舞台に繰り広げられる小説『夜は短し歩けよ乙女』

『夜は短し歩けよ乙女』 森見 登美彦 KADOKAWA/角川文庫

小説『夜は短し歩けよ乙女』はまさに京都文学の決定版で、4章構成の目次からなる作品です。

まずは京都の古風で雅な雰囲気を表現しているその目次にご注目ください。

第一章「夜は短し歩けよ乙女」
第二章「深海魚たち」
第三章「御都合主義かく語りき」
第四章「魔風邪恋風邪」

なかなか聞かなくなった言い回しを愛し、巧みに操られる森見登美彦さんのその小説世界観を少し感じていただけたでしょうか。

『夜は短し歩けよ乙女』は漢字の多い小説だと感じます。現在ではおおむね開くようになった言葉も漢字表記されています。そのぶんルビ、いわゆる読み仮名も多い印象です。

例えば、「読む閑」「ただ徒に」「蜂蜜生姜湯」「禿頭」「紅い」「珈琲」などです。

実際に「京都が見慣れない漢字の羅列まみれ」という事ではないのですが、古風な文化や独特の京都感はいまも街に漂っています。

本作品はエンターテイメントとして京都を味わうことができる物語なのです。



京都に点在するモチーフたち

『夜は短し歩けよ乙女』小説内に登場するモチーフの多くは京都に実在しています。

あなたのお気に入りのスポットや、訪れてみたいイベントなども見つかるかもしれません。

第一章のごく初めに登場する喫茶「みゅーず」は2006年に残念ながら閉店してしまいましたが、実際に存在したお店だそうです。四条河原町付近の名曲喫茶として多くのお客さんに愛されたといいます。
ちなみに『夜は短し歩けよ乙女』の単行本発売年もまた2006年です。

第四章に登場する喫茶店「進々堂」は現在も盛んに営業しています。
昭和5年創業の喫茶店。京大北門前に位置する喫茶店「進々堂」は、イートインや宅配も承ってくれるそう。パンメニューに定評があるお店です。


お店だけではありません。第二章の「深海魚たち」は古本市でのお話です。

「蝉時雨を聞きながら」、「京都、下鴨神社の参道で」 (出典:『夜は短し歩けよ乙女』 79p,6行目)といった描写があり、これはかの有名な京都の古本市場「下鴨納涼古本まつり」ではないかと想像できます。

実際に文庫版の80ページには、「翩翻と翻る紺の幟には、「下鴨納涼古本まつり」と書かれてある。」 (出典:『夜は短し歩けよ乙女』 80p,1行目)との1文があります。

この古本市は例年8月半ばごろの夏ざかりに開催される京都の伝統イベントです。

もし小説『夜は短し歩けよ乙女』を読んで、下鴨納涼古本まつりに興味を持っていただいたあなたにはぜひ一度、この古本市を訪ねていただきたいと思います。



あなたの京都愛をより強くしてくれる『夜は短し歩けよ乙女』

すでにお気づきかと思いますが、本作品はこのようにして、「京都のガイドブック」のような要素も持ち合わせています。

ご自身の肌で京都を感じて、気になった場所には足を運んでみたくなる。

自らも京都に縁がある著者・森見登美彦さんだからこそ書くことができた京都文学の決定版『夜は短し歩けよ乙女』は、あなたの京都愛をより強くしてくれることでしょう。



『夜は短し歩けよ乙女』の調子っぱずれな点もお忘れなく

一方で『夜は短し歩けよ乙女』には、かなりゆるり、ふわりとしたギャグも多く撒かれているのです。

夢見がちの「黒髪の乙女」に密かに思いを寄せる主人公「先輩」。
彼ら2人が築き上げる独特の会話には、つい笑いがこみ上げてきます。

ゆるりと心に寄り添ってくる自己肯定感もまた、京都ならでは。かつかつとしていない自分の歩みをゆるりと楽しむ「黒髪の乙女」と「先輩」への応援をどうぞよろしくお願いいたします。






■詳細情報

タイトル:夜は短し歩けよ乙女
著者名:森見 登美彦
出版社:角川文庫(2008/12/25)

※上記は文庫版の詳細情報になります

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