KYOTO LETTER 編集部
『京都でつながる本と私。』第5回は、村上春樹さん最新長編小説『街とその不確かな壁』をご紹介します。 2023年4月13日に発売された『街とその不確かな壁』は、村上春樹さんの6年ぶりの長編小説となりました。実はとってもチャーミングな村上春樹さん小説の世界をお届けします。
『京都でつながる本と私。』
この連載では、京都ゆかりの作家の書籍や、京都が舞台の物語を紹介しています。今回は村上春樹さんの最新長編小説『街とその不確かな壁』をご紹介します。
世界的有名作家の村上春樹さんは実はここ、京都のお生まれです。今回の記事では、自称ハルキストのKYOTO LETTER編集部が『街とその不確かな壁』の魅力をお伝えします。併せて「大作家・村上春樹さんは京都の作家なんだ」と改めて実感していただけるようお届けいたします。
2023年4月13日、村上春樹さんの最新長編小説『街とその不確かな壁』が新潮社さんより発売されました。
村上春樹さんといえば、超有名な日本を代表する作家さん。実は数々の著名な文学賞がある中で、村上春樹さんは「芥川賞」や「ノーベル文学賞」といった賞を受賞していないのです。既存の文学賞の型にはまらないような独自の世界観。この世界観こそファンを生むのではないかと思います。
「ハルキスト」という言葉がありますが、彼らハルキストの目当ては文学を読むことではなく「村上春樹さんのエッセンスを読むこと」にあるのではないでしょうか。実は村上春樹さんの小説には、お茶目でチャーミングな印象を与えるものが数多く存在します。くすりと笑えるもの。可愛らしいもの。多くの著作を読んできたコアなファンにこそ伝わる面白さ。
今回はそんな「村上春樹さんのエッセンス」をいくつかお知らせします。
村上春樹さんの小説には、特徴的な言い回しやモチーフが多く登場します。
そして今作、『街とその不確かな壁』では、より村上春樹アーカイブの要素が強く現れているのです。
村上春樹さんの小説を多く読んできた読者には、「ここは『ノルウェイの森』を連想するぞ」「なんだか『海辺のカフカ』の香りがするな」など思い当たる過去作も多いことでしょう。
過去の小説で読んできた場面の集大成のような感じもします。
今回はそんなチャーミングな「村上春樹さんのエッセンス」をいくつか取り上げていきます。
『街とその不確かな壁』では、主人公がスパゲティを作って食べる場面が出てきます。主人公のおうちに友人をひとりお招きして、手料理を振る舞うのです。
登場人物たちはキノコのスパゲティを食べるのですが、あまりにあっさり作ってあっさり食べ終えてしまうのに、読者としてお腹が空くほど引き込まれてしまいました。
キノコのスパゲティと一口にいっても色々連想できます。クリームスパゲティなのか。オイルパスタで、ガーリックと合わせるのか。この記事を執筆するにあたり「キノコ スパゲティ」をネット検索してみたところ、バター醤油など和風のレシピが多くヒットしました。キノコのバター醤油スパゲッティも美味しそうですね。
実は村上春樹さんの長編小説において、「スパゲティ」はトレードマークです。村上春樹さんの小説を読むときにはぜひ、「今作は何味のスパゲティを誰と食べるのかな」「スパゲティを作るシーンは何回出てくるかな」と楽しみにしてみてください。
村上春樹さんの小説の主人公の多くは、10代後半くらいの若者です。
今回の『街とその不確かな壁』では16歳と17歳の少年少女の出会いが鍵となります。2人の出会いはなんとも可愛いのです。エッセイコンクールで共に上位入賞を果たした2人が副賞としてもらった万年筆があります。その万年筆を大切にしながら文通をし、仲を深めていくというものです。
村上春樹さんの小説の中には「若かりし日のときめき」が欠かせないのではないかと思います。
『街とその不確かな壁』では大人になった主人公が、「あの万年筆はそんなに高くて立派なものでもなかったのに」という内容のことを思っている様子が分かります。けれども10代の学生にしてみると、エッセイコンクールで自分の力が認められ、副賞として贈られた初めて手にする「万年筆」というのはものすごく立派で価値のある大切なものでしょう。
こういった若いときの胸のときめきを数多くピュアに描写されていくのも、村上春樹さんの小説の魅力ではないでしょうか。村上春樹さんの小説を読むときには、ぜひ自分の「少年の日の思い出」を刺激してくる描写をチェックしてみて下さい。
このように村上春樹さんの小説はとてもチャーミングな小説ばかりです。あまりにも有名すぎる作家さんなので、とても難しくて複雑な小説だと思われている方もいるかもしれません。ぜひ大きな評判にとらわれて恐れてしまうことなく、チャーミングな描写を楽しみながら読んでみてほしいと思います。
村上春樹さん最新長編『街とその不確かな壁』は、壁の中と外を行き来するような物語構造から、「あっ」というところで2つの世界線がつながりを見せていく、ファンタジー要素のある長編小説です。『街とその不確かな壁』を読んで、本来の自分を探す旅に出ませんか?
■詳細情報
タイトル:街とその不確かな壁著者名:村上春樹出版社:新潮社(2023/4)
タグで検索