KYOTO LETTER 編集部
『京都でつながる本と私。』 今回は京都・宇治出身の作家、武田綾乃さんの『嘘つきなふたり』という小説をご紹介します。 京都ゆかり著者ならではの数々の独自目線で描かれるのは「大人の修学旅行リベンジ」です。 京の川と坂が、私たち読者を歓迎してくれます。
『京都でつながる本と私。』
この連載では、京都ゆかりの作家の書籍や、京都が舞台の物語を紹介しています。
今回は宇治出身の作家、武田綾乃さんの青春小説『嘘つきなふたり』をご紹介いたします。
小説『嘘つきなふたり』は精密な著者の気配りのもとに書かれている小説だと感じます。
まず、ページ割りがとても見事です。奇数ページでは、綺麗に一文が終わっているところが多くなっています。それはつまり、キリよく読者にページを捲らせてくれるための親切心です。
『嘘つきなふたり』というこの本を開くとそこには、温かみのある文体で繰り広げられる小説世界観があります。
著者が読者へ、とても気を配って執筆してくれたことがよくわかる、とてもリズム良い文章たちです。それは『嘘つきなふたり』に登場するふたりの少女たちにも言えるのではないか。
きちんといろいろなことを考えていて、互いに相手を思いやる光と琴葉。そんなふたりはかつての同級生という仲です。彼女たちは想いを打ち明けながら、でもはっきりと言い出せないことも胸に隠しつつ、修学旅行のリトライをしに京都へ向かいます。
「私が先生を殺したの」
読者がびっくりしてしまうこと間違いなしのこのセリフは、『嘘つきなふたり』の鍵となります。
この先生とは、光と琴葉が同級だった頃の担任の先生です。先生の訃報に動揺しているときに再会した旧友から伝えられる、この一言。
『嘘つきなふたり』のひとりは、優等生まっしぐらのような女の子です。自分に嘘をつき続けて、他者にもなかなか本音をぶつけられないようなキャラクターをしています。対してもうひとりは、先生を殺してしまったと自白をし、追っ手から逃れるために京都へ息をひそめに行こうとします。
しかし彼女のこの発言が本当なのか嘘なのかはまだ、誰にもわからないのです。徐々に明かされていくふたりの「嘘つき度合い」は、思いもよらぬほどの結末になります。
小説『嘘つきなふたり』は「どんでん返し」や「伏線回収」のようなキャッチコピーをぴたりとつけることができる、まさに青春・成長ものがたりです。
『嘘つきなふたり』には、小学校の修学旅行をリベンジするかのような京都のシーンがあります。光と琴葉がふたりで、京都修学旅行を再現していくのです。
『嘘つきなふたり』の独自な点のひとつ目がこの「大人の修学旅行リベンジ」という設定ではないでしょうか。光と琴葉がこの設定になっているのは、興味深いのではないかと思います。
大人になって修学旅行を「懐かしむ」ことはあっても、「やり直してやろう」という気にはなかなかならないものではないでしょうか。大人の女子旅ではなく、あくまでも修学旅行。
光と琴葉が訪れるのは、誰もが知るような著名な観光スポットの数々です。
もしかしたら読者のあなたも、学生時代の修学旅行で訪れた京都名所がたくさんあるかもしれません。
そんな王道京都修学旅行コースを巡る小説『嘘つきなふたり』。
そこには、宇治で生まれ、京都市内で大学まで進学をされた著者・武田綾乃さんならではの視点があります。そんな「著者ならではの視線」が、小説内での「大人の修学旅行リベンジ」という設定にとても生きているのです。
子どもの頃には気が付かなかったこと。2回目に訪れたり、写真やニュースで見たことがある場所だからこそ見えてくるもの。
そうした数々の独自目線で「京都」を紡いでくれる小説。それが『嘘つきなふたり』です。京の川と坂が、私たち読者を歓迎してくれます。
読者はきっと、武田綾乃さんの『嘘つきなふたり』を読みながら、適切なところで伏線が回収される気持ちよさに浸り続けます。とても綺麗に、気になっていた箇所が畳まれていくのです。
その見事さと美しさには感激を覚えるほど。この後の展開にドキドキしたり、印象的だった光や琴葉の台詞が後から生きてきてハッとしたり。
そんな臨場感を存分に楽しむことができる小説ではないかと思います。
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